Do you remember? 制作記(5)ミックス・マスタリングの共同作業は難しい

アレンジも一通り完成、さあ次はミックスとマスタリングだ、と思ったらBettyさんから連絡。

歌録りやり直してみたら、いいテイクが録れちゃったんだけど…と。え、この段階で差し替え!?ウソでしょ!と思ったが、聴いてみると確かに良い。音質的にも艶が出て、アーティキュレーションも明らかに上達している。

 

うむむ、差し替えの作業には細かいピッチ修正や、エフェクトの調整などを伴う。それらを1からやり直すのは手間だが、背に腹は変えられん(使い方合ってる?)。やるよ、やりますよ。

ちなみに、Bettyさん側から見たこのときの話はこちら。

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さて、差し替えもなんとか終わり、ようやくミックスの段階に到達。実のところ、これまで自分の作ってきた曲はほとんどがインスト。本格的な歌モノは初めてと言っていい。このため、ミックスにはかなりの勉強が必要だった。

声の質感や伸びを出すにはどうしたらいいのか。プロっぽい音に仕上げるにはどうすべきなのか。最終的にはEQ、コンプ、プラグインなどを駆使して試行錯誤し、どうにかそれらしくまとめることができた。

 

それから各パートの帯域で被っているところのEQを削り、分離感を良くする。各パートのパンや音量バランスをとっていく。リバーブとディレイ、コンプで奥行き感を出す。ローエンドは思い切ってバッサリカットすることで抜けが良くなる。ま、このへんはこれまでもやってきたことなのでお手の物だ。

 

しかし、いざ出来上がった2mixをチェックしてもらうと、細かい要望が出るわ出るわw
コーラスのバランスをもうちょっと大きくとか小さくとか、エレピの低音をもっと出せとか、ローをもっと出せとか、リバーブのかかり具合とか。

当然、納得のいく良いものを作りたいという思いからの意見なので、これは仕方ない。こちらもしっかり受け止めて対応する必要がある。

 

とはいえ、それらを全て採用するわけにはいかない。これは作業者(エンジニア)じゃないと分からないところだが、あっちを立てればこちらが引っ込むということが往々にして起こる。例えば「ボーカルをもう少し大きくしてほしい」と言えば、ボーカルトラックの音量を上げるだけと思われがちだが、そう簡単な話ではない。実はその裏にはいくつもの要素が絡んでいて、全体は個々のトラックの微妙なバランスの上に成り立っているのだ。ボーカルを上げたら別のトラックも調整する必要が出てくる。そのトラックをいじったら、また別のトラックにも影響がでる。ボリュームを上げるのではなくEQやサチュレーションで抜けを良くするとか、コンプで音圧を上げるほうが狙った音になることも多い。それはそれで、また別のトラックとのバランスを取り直さなければいけない。

 

そんなわけで、いずれにしろ試行錯誤できるのは最初期の段階のみで、ある程度バランスが出来上がった状態で何か一つ変えると全てが崩れるリスクがある。このため、譲れない部分はその理由を含めて説得し、直せるところは直す、というやり取りを何度も行った。

これは次のマスタリングの段階でもほぼ同じだった。

 

ミキシングとマスタリングに関しては共同作業が非常に難しい。わかっちゃいたことだが、今回は特に痛切に感じた。作業はエンジニア自身の耳の感覚に頼る部分が大きい。作業者と依頼側は当然感覚が異なるわけで、そこがズレている状態で互いに意見を言ってもなかなか妥協点が見出せない。方向性について事前に合意が取れていないと、思い付きで、あーしてみようか?こーしてみようか?とこねくり回すことになる。

だから、本来は共同でやるのではなく、最初に意向をしっかり共有してエンジニアに完全お任せとしてしまうほうが上手くいくことが多いのだ。

 

まあ、今回については俺の技術が未熟で自信がなかったせいもあって、むしろこちらから逐一チェックをお願いして、気になる点を確認してもらいつつ修正を入れるという進め方になったわけだが。一旦完パケした後にやっぱり音圧に納得いかずやり直しを提案したりと、余計な手間を何度もかけさせてしまったのは反省。一発でOKがもらえるくらい、もっと腕を磨かないと。

 

とにかく、こんな感じでやりあいながら、なんとか完成まで持ってこれた。9月初めに本格的に作業を開始してから4か月強!たった1曲(別バージョンも入れれば2曲)にここまで心血を注ぎ込んだのは初めてかもしれない。

 

最初にも書いたが、自分一人ではここまで追い込めなかっただろう。数々のダメ出しがあってこそ、このクオリティまで辿り着けたと思っているので、このやり方も悪くないのかもしれない。時間はかかるけどね。

(了)

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というわけで、「Do you remember?」および「Do you remember?-ethno mix-」2023/1/20に配信リリースが決定!spotifyapple musicほか主要な配信先はカバーしますが、場合によっては遅れることもあります。少なくともbandcampは確実に20日リリースですのでお待ちください。

 

なお、ジャケは画家の長山太一氏の絵を使用させていただきました。

nihonbashiart.jp

曲の持つ生々しい情動や不安感、決意などが、ちょうどぴったりハマる素晴らしい絵。本当にありがとうございます!