電子レンジ燗

ずいぶん前ですが、とある純米酒をなんとなくレンジ燗してみたんですよ。温度はぬる燗くらいまで。そしたらこれがびっくりするくらいダメで。アタックはピリピリして苦味が増し、旨みはむしろ後退して痩せてしまった印象。なんだこれは。そこで、湯煎でも同じ温度に燗つけして比べてみたところ、こっちはすごく美味しい。燗ならではの良い変化を得られる。最初は気のせいかとも思ったが、少し時間を空けてからもう一度比べても同じ結果だったから間違いない。

別の酒でレンジ燗したときはそこまで悪い印象はなかったんだけど、もしかしたら今回の酒が雄町なのでもともと苦味とか雑味のようなものは持っていて、それを他の要素でうまくマスキングしたり調和をとったりしていたものが、どういう理屈かわからないがレンジのせいでバランスが崩れて表出したのかもしれない。

そういえば以前、居酒屋の店員さんが燗のつけ方ひとつで全く違う酒になるって話してたな。影響を及ぼす要素はいろいろ考えられるが、レンジ燗の場合は温度が急激に上がりすぎるので、それが悪影響を及ぼしたのだろうか。もしかすると、酒によっては逆にレンジのほうが美味しくなるものもあったりしして。

お燗する酒にもよると思うし湯煎しかダメ!とまで言うつもりはないが、やはり傾向としてレンジは味が落ちる気がする。暇な人はどのくらい差があるものか、一度比較してみてほしい。

2017年のベストオブ日本酒

2017年も結構いろいろ飲みました。ただ、種類数としては減ってきてます。
日本酒経験値が上がるにつれて、求める味のハードルも高くなってきてるんですよね。これまでは手当たり次第というか、とにかく知らない酒に対する好奇心が勝っていたんですけど、徐々に当たりの確率が高い酒に絞って狙う方向に変わってきました。2018年はさらにこの傾向が進むでしょうね。どうでもいい酒を控えて、その分の金を多少高くても間違いない酒に投資するようになるんじゃないかしら。
 
さて、2017年に飲んだ中で好印象だったものを抜き出してみたところ、意外にもジューシー系に引っかかっていたことに気がつきました。あまりフルーティなのは敬遠しますが、ある程度ガス感があってすっきり飲める、いわゆるサイダーのような酒を求めている自分が。その手の酒はガキっぽくていいや、なんて頭では思っていたはずが、体は案外求めていたという…。
 
また、トピックとしては、濃醇系への飽きと定番晩酌系の魅力に気づいたことですかね。濃醇系、いわゆる濃くて甘酸っぱいやつはもういいかな。この系統はわりとどれもキャラクターが似てて変化に乏しいのも飽きた理由の一つです。そして定番晩酌系。スーパーでも手に入るような地味で安価な定番の加水火入れ酒にじわじわ吸い寄せられてます。インパクトはないんだけど、不思議とまた飲みたくなるっていうか。実際この手のはカス酒が大半なんだろうけど、その中から実は良酒ってのを発掘するのが、まるでレコ屋じゃなく町の古本屋とかリサイクルショップで良盤を発見するのに似ててdig魂が刺激されるんです。
 
というわけで、2017年の振り返りは「ジューシー系」「定番晩酌系」「軽熟成系」「生酛山廃」「その他」というカテゴリーでそれぞれベスト5を選出していこうと思います。コメントは基本、初出時のものを転載していますが一部加筆修正も。
 
 
■ジューシー系
甘すぎず、骨格があって酸がしっかり仕事をしている酒を選びました。この手のはヘタをすると無駄に香ったり旨みがボケたガキっぽい酒になりがちなので、ある程度タイトでシャープな雰囲気を嗅ぎ取ってチョイスするようにしてます。
なお、本当は12月に飲んだ守破離の雄町&山田錦も入れたかったですが、notitleを載せたので泣く泣く割愛。
 
野崎酒店 赤ラベル 純米吟醸 美郷錦仕込★★★
新橋の居酒屋、野崎酒店のプライベートブランド。「春霞」の栗林酒造が醸した美郷錦50%磨きの純米吟醸。立ち香は弱く、含むとシャープなアタックで甘みよりもビビッドな酸が主張。旨みはスリムながら薄っぺらさはなく凝縮感と足腰の強さがある。リリースでほのかな苦み。柑橘を思わせるジューシー美味酒。温度が上がると明らかにアタックが柔らかくなる。面白い。★3つにするか2.5にするか迷ったけど、おまけして3にします。
 
旭鳳 純米吟醸 生 泰平★★
八反錦60%、香り弱いながらも洋梨っぽさがある。軽い甘みにスムーズな旨み。多少の渋みと辛さ。アル感もあるが全体的にはよく出来ていてソツなくまとまっている。八反錦の特徴である、いい意味でのソリッドさと軽さが素敵。なんだろう、派手さはないけど不思議とまた飲みたいと思わせる何かがある。
 
刈穂 white label★★☆
ほのかに柑橘系の立ち香。白麹ってこととラベルの印象から勝手にシャープ系の酸っぱい酒を想像してたが、思っていたよりずっともっちりした甘みを持っている。そこに予想通り鮮烈な酸。旨みは控えめで、そのまま霧散するようにキレていく。アフターに残るごく軽い苦みも悪くない。後口にやや水っぽさというか物足りなさを感じるが、甘酸系の酒としては高いレベルにある。初心者にも玄人にもおすすめできる。
 
澤屋まつもと 守破離 no title★★★
これはすごい。含むと甘みは控えめでかなり強めのガス、なおかつガスの裏でまつもとにしては滑らかさすら感じる柔らかさがある。そしてガツンと強めでフルーティな酸。そのあとそれなりの旨みがやってくるものの、それを感じるのは一瞬で速攻でキレて行く。いろいろな日本酒を飲んできたが、含んでからキレまでの時間がここまで短いのは初めて。
 
開運 純米 無濾過生原酒★★☆
山田錦55%。静岡酵母らしい優しいメロン香。口当たりは非常に柔らかく滑らか。微かなガス感もあり。軽快な甘みと旨み。ジューシーな酸味がフレッシュさを演出。最高に芳醇でうまい。最後はごくわずかな苦味を伴ってスっと捌ける。なんという立体的で躍動感のある酒か。ただ、開栓から数時間後、常温近くで飲んだら今一つフレッシュ感が失われて平板な印象に。これが時間的変化によるものなのか温度的変化によるものなのか、車中だったので確かめようがなかったんだけど、恐らく温度かな?いずれにしろ開栓してすぐは間違いなく ★★★だったんだけど、この味の崩れで★が半分減りました。それでもやっぱり開運は静岡酒の最高峰だな。大好きです。
 
 
■定番晩酌系
結局のところ「飽きない」というのが最強なのかもしれない。もちろん不味いのは論外ですが、おじさんたちがこの手の地味だけどしみじみ旨い酒に落ち着いていくのはわかる。
 
都内ではスーパー御用達の銘柄なので正直ナメてたけど美味いわ。バニラリーな立ち香。含むとほんのり熟感を感じるほどほどの甘み。意外にも味幅のある旨みと比較的強めの酸の後、辛みがやってくる。食中酒としてかなり優秀。熟成もそれなりに行けそうなので試してみよう。
 
彦市 純米地元一貫造★★☆
冷酒だとあまり味の出てないありがちな田舎酒なんだけど燗つけると一気に化ける。旨みが増幅してふくよかに、なおかつこの酒本来のすっきりさも併せ持つため、いくらでも飲めてしまう。純粋に味だけなら★☆だけど、ここまで変化が著しいのは久しぶりだったため、この化けっぷりに★ひとつ追加。
 
旭菊 大地 純米26BY★★
いわゆる純米らしく燗上がりしまくるタイプ。地味で特段目立つところはないが、それでいてしっかり存在感はある、まるで昭和のホームドラマに出てくる母親のようなほっとする酒。2年熟成だが熟香はほとんどなく、優しいアタックですーっと口中に入っていく。たいていの燗酒はここで旨みの主張がくるんだが、この酒はそれが控えめでふわふわしたまま最後の酸に収束していく。ただ、決して軽いわけではない。飲み疲れしない非常にバランスのとれた純米酒。なお28BYはちょっと硬くて味が出ておらず、ここで得たような感動はなかった。ある程度熟成させてナンボの酒ですね。
 
白鷹 特別純米 伊勢神宮御料酒★★
山田錦70%。大手酒蔵で有名銘柄にもかかわらず都内ではあまりお目にかかれないが、とあるスーパーで発見。500mlで700円という安さ。さあ味はどうか。まずは若干の乳酸を感じる立ち香。含むと割と甘みは強く乳酸系の旨みも濃醇。酸の輪郭がはっきりしてるので非常に好印象。後口が少々雑だが、まあ値段考えたら十分か。ぬる燗~上燗で丸みが増し、後口の雑味も弱くなる。燗冷ましで酸が増してさらに飲みやすく。これは熟成もいけそう。
 
初孫 生酛純米27BY★★☆
常温自家熟成シリーズ。 スーパーで安売りしてたのを買って1年置いてみたけど まあ失敗しようのないスペックだよね。予想通りにまろやかなアタック、思ったより感じる甘み、ごく軽い熟味、腰の強い旨み。生酛らしい深み。燗もばっちりはまる。ただ、常温でも充分旨いので燗専用というほどでもない。なお、非熟成のものに関してもそれほど大きく印象は変わらない。ほんの少し酸や硬さがあるかな、といった程度なので特に問題なし。逆に言うと、売れ残りでも入荷したてでも品質はほぼ安定してるってことで。
 
■軽熟成系
なんだかんだ言ってほんのり熟成させた落ち着きのある酒が一番好きなんです。ちなみに熟成は熟成でも長期熟成酒はそこまで好みではありません。何かみんな同じになっちゃう気がして。面白いしたまにはいいんですが、それほど好んで飲む気はしないですね。
 
富久長 超ひやおろし吟醸 秋櫻  2年熟成(2015BY) ★★☆
軽く甘みを予感させる立ち香。含むと想像通りのライトなタッチ。このあたりは富久長 らしさか。旨みはきれいでスムーズ。エレガントにキレ。熟味も軽くあり。これ、熟成してなかったら物足りなかったんだろうな。ほどよく角が取れて旨みが育っている印象。かなり好きなタイプ。今後、この手の軽い酒の熟成をもうちょっと追及してみたい。
 
ロ万 火入れ原酒P 25BY★★☆
ロ万の「P」?全く聞いたことないな、と思ったらこの年にだけ造った、かどや酒店のPBらしい。店の冷蔵庫で4年近く寝かせていたとのこと。これもロ万独特の柔らかさ。ややもっちり感があって軽くはないが重いというわけでもない。控えめに熟成感もあり、すーっと体に馴染む。
 
伯楽星 特別純米 ひやおろし★★★
立ち香はほどよくカプロン。柔らかで上品な甘みからフレッシュ&フルーティな含み香を伴った、ふくよかな甘みに移行する。最初の含みでこれだけ立体感があるのは面白い。旨みも酸もキレイに出ている。最後は軽い苦みで締める。軽すぎず重すぎずエレガントさがある。通年の伯楽星は正直淡麗すぎて好みじゃないんだが、これはいいね。熟成の賜物。
 
天穏 無濾過生詰原酒 山廃純米 ひやおろし27BY★★
27BYをひやおろしとして2016年の秋にリリース。さらにそのまま店で半年眠っていたのを購入。都合約2年ほどの熟成になる。米は特等雄町。ほんのわずかな柑橘っぽい立ち香。含むと優しい甘みと柔らかい酸がフェードイン、若干の乳酸を伴った旨みがやってきて弱い苦味が顔を出しながらゆっくりフェードアウト。少しアルコール感あり。ひやおろし+半年寝かせのわりに熟味はないが、熟成によるまとまりは感じる。雄町らしい濃醇で豊かな味わい。
 
国権 秋あがり 28BY★★☆
2016年秋リリースのものなので都合1年くらいの熟成か。上品で儚げなんだけどそれなりに強度はある甘み、舌の奥で軽い熟味を伴ったコクと酸を感じたまま苦味に変化する。やっぱこのくらいの軽い熟成された酒が一番好きだわ。常温になると急に雑な感じになるので冷酒のほうがいい。常温を超えて40度くらいまで上げれば、これはこれでいい感じになる。ただそこまで燗上りするわけではない。
 
■生酛・山廃
近年流行の兆しがあるのでいろんな蔵が手を出してるけど、ただのゴツい酒に成り下がってるのが多くて残念。今後はこの製法ならではの酸と深みを生かしつつもキレイな酒質のものが抜けてくると思います。個人的には「乳酸」っぽさが好きなのでそこにも注目していきたいところ。
 
居谷里 山廃 純米 火入れ原酒70 27BY(緑ラベル)★★
実に濃醇でインパクト充分ながら、骨太過ぎないのでついつい杯を重ねてしまう。山廃らしい酸はそこまで明確に感じないが、全体のバランスをとる舵取り役として確かに機能している。極小レベルながら終盤に熟味が感じられ、それがこの酒の奥深さにつながっている。非常によくまとまったいい酒。
 
カネ中 家伝造り 生酛純米 23BY ★★☆
近所の酒店のバックビンテージ。平たく言うと売れ残り。いつもながら濃醇で最高。濃い目の食べ物と合わせるとさらに映える。熟成によるチョコっぽさはほとんどない。カネ中は熟成させたほうが絶対美味い。
 
開春 西田 生酛純米★★☆
山田錦。軽い熟味と生酛ならではの乳酸感。冷やでも燗でもどちらも良さを発揮できる。これは自家熟成に向いてるかも。
 
小左衛門 純米 生酛造り 備前雄町 火入れ★★
乳酸系の立ち香。アタック時点での甘みはほぼないが、乳酸系の旨みにちょうどいい感じの甘みが伴って広がる。酸もしっかりでしつこくない。27BYとあるので蔵で少し熟成させてから出荷してるのかな。とても好きなタイプ。思ったほど燗上がりはしない。むしろ燗冷ましが良い。まあ冷酒~常温で充分か。
 
 
■その他
最後、今回のカテゴリには当てはまらなかったけど印象に残ったものを。
 
三千櫻 地酒SP 直汲 生(普通酒★★
初日は冷酒が一番いい。常温以上だと鼻に抜けるアルコール感がちょっと気になる。かすかな甘さが微発泡感を伴ってスムーズに入ってくるが、すぐ旨みにバトンタッチ。その旨みがそのまま増幅して再び甘みが顔を出す。最後は軽い苦みとともに捌けていく。酸は主張しないが確かに存在している。アル添によるごく薄いベールは終始感じるが、悪い方向には作用していない。二日目、初日とは全く違う酒に!液性に丸みが出て甘みが明らかに増大。含んだ時点からそこそこ強い甘さを感じるが酸がちゃんと無駄な広がりを抑える。中盤以降の流れは初日と変わらないが、全体的にまとまりが出た。初日に感じた浮いたアルコール感もあるにはるが、全体のバランスの変化によってそれほど気にならなくなってる。こりゃうまいわ。普通酒とかアル添を敬遠する人にこそぜひ飲んでほしい逸品。
 
裏鍋島 隠し酒★★☆
荒責ブレンド。一部では味が落ちたと囁かれる鍋島だが、いやいや充分うまいじゃないですか。立ち香はほとんどなく、シルキーな甘みからきれいな曲線を描いて旨みに移行、酸もしっかりで美しく着地。エンベロープも味わい自体もスタンダードな感じなんだけど、なんというか、いちいちクオリティの高さを感じる。恐らく甘みが優しく雑味がないことが上品さにつながっているためだろう。
 
播州一献 純米大吟醸 北錦★★☆
無濾過生で磨き50%。フレッシュ&フルーティ系の純米大吟醸でおおっと思える酒に出会ったのは久しぶり。 立ち香はフルーティでそこそこあるが料理の邪魔をするほどではない。含むとしなやかな甘みと強めの酸がスムーズに入ってくる。旨みもしっかり。アルコール感や苦みはなくきれいにひけていく。なんというか、どちらかといえば濃醇なんだけどバランスがすごく良くて悪いところが見つからないんだよね。もうちょい低精白だったらこのバランスがさらに濃醇に寄っちゃって崩れそうだな。良くも悪くも人懐っこくてわかりやすい。
 
自然郷 七(セブン) special ver. ★★★
通常のセブンを飲んでないのでこのspecial ver. と具体的に何がどう違うのかイマイチわからないが、他ブログの通常セブンの感想を見る限りでは、やはり若干異なる味のようだ。こちらはとにかく柔らかいアタックが特徴的。まるで引っかかりがなく、スムーズに口中に滑り込んで、優しい甘みと旨みがブワっと広がる。この広がり方の幅がすごい。甘みの性質は村祐にも似た上品でシンプルなもの。酸は弱めだが、ごくわずかな苦みがキレにつながっている。
 
風が吹く<金>山廃 純米吟醸 生酒うすにごり(中取り)★★
この酒はとにかく酸の存在を感じさせないのが面白い。酸度自体は1.7なので普通だが、舌に感じるのはツルっとした甘みと旨みで山廃にありがちな酸はほぼわからない。だからといってボケてるわけではなくちゃんと立体的な構造はあるし、それなりに輪郭もわかる(この辺に酸度1.7の意味が隠れているのか)。明らかにモダン山廃の一つの方向性を指し示している。
 

酒の味の表現

日ごろ飲んだ日本酒の味を忘れないようにメモをとっているんだけど、どうにも味に関するボキャブラリーが貧困で最終的には「うまかった」「まあまあだった」「不味かった」とかに集約されてしまうこのバカっぽさ。これじゃ後日味を思い出そうにも思い出せない。そこで、よそ様の日本酒ブログなどを参考にしながら味の表現に使われる単語(主に形容詞)を列挙してみることに。これを見ながらならもうちょっとマシなメモがとれるかも。


■華やか系
華やか
フルーティ
フローラル
芳醇
ジューシー
フレッシュ感

■穏やか系
滑らか
メロウ
安定感
バランス
ほっこり
穏やか
静かな
まとまっている
伸びのある
柔らかな
優しい
深みのある
丸みのある

■ガッツリ系
濃醇
濃密
重厚
厚み
ボリューミー
膨らみ
まろやか
幅の広い
奥行き
力強い
押しが強い
グラマー
乱暴

■クリア系
キレイな
クリアな
さっぱりした
軽快な
すっきりした
青々とした
シャープな
引き締まった
凛々しい
若い
硬い
清涼感
線が細い
あっさりした
きめ細かい

■その他
やんちゃ
シンプル
複雑
ザラつき
さらさら
パウダリー
ミネラリー
発泡感
収斂
ぼやけた
くっきりした
凝縮感
抜けがいい
とろっとした

 

これらを「アタック」「甘み」「辛み」「旨み」「酸味」「苦み」「雑味」「質感」「熟成感」「ガス感」「余韻」「変化」などのトピックごとに擬音をうまく絡めて使えばだいぶ表現できるようになりそう。似たような単語が並んでいるが、それぞれ微妙にニュアンスは違う上、文脈次第でチョイスも変わる。あとはセンスのみですね。

MIS(most impressive sake)アワード 2016

備忘録かねて今年飲んだ中で心に残った酒を記録しておきます。80点くらいの充分に旨い酒はたくさんありましたが、それを全部拾っていくと膨大になるので、特に印象に残った酒に厳選しました。そうなるとどうしてもインパクトの強い変態酒が多くなるのはご容赦を。

個人的な好みの傾向としては「濃醇」「香り控えめ」「キレよし」「程よい熟成感」「アルコール感控えめ」といったところになります。日本酒飲み始めのころは無濾過生原酒とか濃醇甘酸系ばかりに引っかかってましたが、最近では日本酒度がプラスに振り切ってるいわゆる辛口のおっさん臭いのでも旨いな~と思うようになってきました。ただし、濃いのに限りますが。旨みが薄い淡麗なのは甘辛問わずイマイチ好きになれないです。あと辛口を謳ってる酒は基本、燗にして飲んでますが、この手で冷酒のほうがうまいと思えたのはまだ多くないので、来年はこのあたりの「冷酒でも旨い辛口」がディグのテーマになりそう。

ところで、ここまで何年か飲み進めてきて感じるのは、同じ酒であっても様々な要因でガラッとインプレッションが変わるということ。経験値、体調、前後に飲んだ酒、合わせる料理、店の管理、酒器の形など、 いろいろありますが、もっとも大きく影響するのは口開けしてからの日数と飲む際の温度かなと思っています。 口開け至上主義みたいな人が結構いますが、必ずしも開けたてが最もおいしいとは限りません。このへんは酒にもよりますが、確かに大吟醸みたいな香りが強めだったりキレイで繊細なタイプは時間が経つと比較的崩れやすい傾向にあります。反対に燗上がりしそうな骨太純米系は時間が経つにつれ味乗りしてきます。生と火入れでも変化の差は大きいですね。ここらへんを全く考慮しないで飲むとまともな評価は難しいです。

いずれにしろ、以前飲んだ時は旨かったのに今日はイマイチなんて、もうしょっちゅう。もちろんその逆も。なので、1回飲み屋で適当に半合飲んだ程度でウマイとかマズイとか断言するのは難しいです。飲み屋なら期間をあけて2回以上飲んで、それぞれの状況を鑑みながら総合的に判断してはじめてその酒を理解できるのかなと。

とはいえ、現実的にはそう何度も同じ酒に出会えることはありません。季節ものなんかは少なくとも1年待たないと飲めないですし、同じ銘柄で同じスペックであっても年度が変わったら全く違う仕上がりになっているなんてこともよくあります。つまり、これから挙げる酒の多くは一回飲み屋で飲んだだけなので、次に飲んだら全然うまくねえ!となっている可能性もあるということです。更には、個人の好みという最大の不確定要素も加わるので、これを読んでるあなたが旨いと感じるかは全くわからんよ、と。

さて、前置きが長くなりました。ようやく本題です。吟醸大吟醸が極端に少ないあたり、如実に趣味が表れてますね。


▼甘酸濃醇部門
最近は骨太純米燗酒系にシフトしてきているとはいえ、残草蓬莱 四六式と三諸杉 菩提酛が日本酒にはまるきっかけとなった酒なので、どうしてもこのへんの重厚甘酸っぱワールドから抜け出すことができないんです。やっぱり原体験だからね。

早瀬浦 本生純米吟醸
そこそこ華やかな香りでめっちゃ甘酸フルーティ。そして無濾過生原酒なので当然濃い。非常にわかりやすい味。音楽で言うならEDM。火入れのほうは少し物足りなさを感じた。

白玉香 特別純米 無濾過生原酒
これも甘酸で、さらに旨みが乗ってるのでボディが太い。いい意味で雑味もあってとにかくファーストインパクトが強い。無濾過生原酒らしい重さはあるんだけど、酸が効いてるからジューシーでクドさはない。この酸の強い感じは熟成もいけるんじゃないかと踏んでいるがどうだろう。

秋鹿 純米 多酸生原酒
名は体を表す。日本酒度-11、酸度3.6。数値的にかなりヤバイ(特に酸度)が、味も完全に甘酸エクストリーム系。ただ、舞美人みたいなひたすら酸っぱい感じはなくて、甘みも強いのでちゃんとバランスが取れてる。やはり秋鹿は間違いない。

都美人 Miracle Rose 山廃純米原
アルコール度数10%の低アル原酒。そして日本酒度-40というこれまたエクストリーム系。店のマスターのアイデアで、凍らせたのを崩してシャーベット状になったものが提供された(みぞれ酒)。低温のせいか甘さはそこまで感じず、山廃らしい酸と相まって素晴らしいヨーグルト感。10度くらいまで温度を上げてみると、それはそれで悪くないが不思議とパンチ感は減った気がする。この酒はシャーベットがベストだった。

ソガペールエフィス ル・サケ・ナチュレル90
頒布会に入った人しか手に入らない非売品。現代の生もとともちょっとだけ違う製法の「古典生酛」で醸した、精米歩合90%の変態実験酒。 ヨーグルトっぽさもあり、とにかく濃くてインパクトすげえ。常温だとそれなりに感じた雑味も燗にするとすっぱりとなくなる。明らかに燗上がりする酒質だが、ぬる燗以上ならどの温度帯でも味の印象が変わらない不思議さ。これだけ濃いと飲み疲れしそうなもんだけど、これまた不思議と全く飽きずにグイグイいけてしまう。まあそこは俺の好みにハマったからなのかもしれないが。とりあえず、人生でこれまでに飲んだ中では5指に入る酒。

昇龍蓬莱 酵母無添加生もと 古式一段仕込み
精米歩合:93% 日本酒度:-44 酸度:3.8という変態スペック。めちゃめちゃ濃い。でもしっかりキレる。大人のカルピス(エロい)とも例えられる乳酸飲料っぽさは菩提酛にも通じる。ていうか、古式造りってもしかして菩提酛のことなのかな?濃いので割り水して燗つけしても美味かった。

風の森 純米しぼり華 80 雄町
このフレッシュ感とキレ、言われなければとても磨きが80%とは思えない。微発泡なのもフレッシュ感を助長してて素晴らしい。そのうえでちゃんとジューシーでボリューム感も同居していて見事。硬水由来のミネラルっぽさは風の森の特徴だが、それがこのキレにつながってるのかな。スペック的にはマニアックだけど日本酒初心者でもすいすいいけちゃう感じ。

奥 夢山水十割 低温熟成 25BY
結構トロみがあって濃くてジューシー。エッジがとれてて丸みがあるというか。ぽっちゃりした印象。ちなみに自分が飲んだのは二年半低温熟成したものだが、熟成感はほとんど感じなかった。ノーマルのほうはまだ飲んでないのでいつか飲みたい。

鷹長 菩提酛 純米 生原酒
「風の森」を醸す油長酒造の別ブランド。 菩提酛 は個人的な日本酒原体験のひとつとなっていることもあり、現在リリースされている銘柄は全てコンプリートしてやろうと目論んでいるのだが、とりあえずこれまで飲んだ中ではこれが一番好き。最も濃醇で甘酸っぱかった。日本酒度-25、酸度3.2。はい変態酒。

長陽福娘 山廃純米 無濾過生原酒 山田錦
純米吟醸雄町もなかなかだったが、磨きが少ないこっちのほうがより好み。甘旨系で酸は弱めだが変なもたつきは皆無。山廃にありがちな野性味というかガツっとした感じは全くなく、非常に端正。わりと生っぽさが強いので燗は微妙かなと思ったが、これも全然いける。ぬる燗くらいで雑味が消えてまとまりが良くなる。こうなると他のスペックも飲みたくなるな。特に速醸の山田60が気になる。
 
民宿とおののどぶろく 水酛仕込み
どぶろくそのものをそんなに飲んだことがないので基準がわからないが、まあこれはほんとうまいです。甘酸系で当然濃いけど微発泡でフレッシュ感あるから嫌味は全くない。これ飲んじゃうとやっぱり水酛(菩提酛)には何かあると思わざるを得ない。

▼バランス系部門
ガツンとくるインパクトはそれほどではないものの、なぜか心に深く刻まれた田中六五を載せたいがために無理やり設けた部門。

田中六五 生
極端な酒ばかり紹介しているがその中にあって正統派のバランス酒。甘み、酸味、苦み、旨み、全ての要素がちょうどいい。ちょうどいい酒なんていっぱいあるけど、そのちょうどよさが半端ない。うまく表現できないが。どこかエレガントさも感じさせるあたりがネオクラシカルと言われる所以か。キレイで程よい旨みと弱い香りでエレガントとという意味では新政No.6と同じ方向性かも。生と火入れがあるが個人的には生のほうが好み。火入れは旨みが少し物足りないかな。

御前酒 菩提酛 雄町
同じ蔵の9(nine)の菩提酛は夏酒っぽい感じで正直物足りなかったが、こっちは全然違った。さすがは雄町のボリューム感。甘酸ではあるけど、それもほどほどの域に納まっていることから、あえてバランス系とした。菩提酛っていうとどうしても極端な味になるものが多い中、この程よい仕上がりってのは非常に造りがテクニカルなんだろうな。蔵人じゃないからよくわからんけど。

新政 日本酒古典技法大全 九割四分磨き精米
頒布会限定なので飲めるとは思ってなかったが案外置いてある居酒屋あるのね。ソガペールの90%と昇竜蓬莱の93%よりずっとすっきりした味わい。94%って食米より低精白なのに、やり方次第でこんなにもバランスのいい酒ができるんだな。立ち香はほとんどないが、なぜか含み香は結構あって、それなりの複雑味とボディの強さを持ちながらも、甘すぎずほどよいキレ。一言で言うとすげえうまい、それに尽きる。ちなみに燗上がりはしなかった。冷酒のほうがうまい。経験則からして、この手は間違いなく燗がいけるはずだったのにな。そこもまた不思議な酒。

山陰東郷 純米大吟醸
濃くて太くて燗上がりする大好きな銘柄。基本的にバリバリ完全発酵系の辛口燗酒を造る蔵なんだけど、25BYから強力を使った造りで日本酒度-14という(表面上は)これまでとは真逆の方向性を打ち出している。で、俺が最初に飲んだのは26BYの強力なんだけど、これがまた甘くて太くて最高で。以来、基本路線の辛口も含めてずっとファンなのだが、大吟醸は初めて飲んだ。40%磨きの生酛で山田錦。まず上立香。ほとんどない。よっしゃ、期待通り。一口含んでみる。これはすごい。間違いなく山陰東郷の味で、アルコール感がなくてバランスのとれた甘みと酸味が超好み。しかしこれが大吟醸かってくらい太いし香りはないし(褒めてる)。若干雑味が少なめでクリアな感じが大吟醸らしさなのか。新政の94%は、この磨きでこのクリアさ!という驚きだったけど、これは真逆。考えようによっては、普通の純米と味が変わらないならわざわざ価格が高い大吟醸を飲む意味もなかろうと思うが、それも野暮な考えか。燗をつけなかったのが悔やまれる。

開運 ひやおろし
開運は静岡酒の中ではもっとも好きな銘柄でいつどのスペックのを飲んでも外さない安定感がある。このひやおろしも例に漏れず。静岡酵母独特の口当たりの柔らかさと酢酸イソアミル由来のメロン的立ち香はそのままに程よい熟成感が足されていて、面白うまかった。燗をすると優しい甘みがやや前に出てくるが、あまり大きく印象は変わらない。

新政 立春朝搾り
生まれてはじめて飲んだ朝搾りがこいつなんだけど、それはもうフレッシュで発泡感あってすいすい行けちゃううまさ。どっしりした酒が好きな私もさすがにやられた。ちなみに別の機会に天青の本醸造の搾って二日目くらいのを飲んだんだけど、それもかなりうまかったので、新政だから最高!という話ではないのかもしれない。

船中八策 純米超辛口
超辛口と謳っているが、アタックは甘めで丸い。リリースで辛口らしくドライさが顔を出してバシっとキレる。燗はぬるから人肌くらいがちょうどいい具合に甘みが強調される。ただ、この酒に関しては燗よりも常温のほうが好みかな。低い温度のときに感じられる硬さが個人的に好み。辛口おっさん酒に開眼したての今の自分にはとてもうまい酒なんだけど、おっさん酒界隈ではアベレージクラスなのかもしれない。来年以降また経験値を増した後にどう感じるかが楽しみ。

▼燗酒部門
燗あがりする酒ってのは、燗をした時点で不思議とどれも及第点以上になるんだけど、逆に言うと割とみんな似たようなキャラクターになってしまい突出した銘柄に出会いづらい。その中にあってなお印象に残った6酒を。

神亀 ひやおろし 山廃純米 24BY
これは本当に旨い。旨みの嵐。レギュラーの神亀をさらにぶっとくして熟成感もプラスした欲張りさん。友人いわく、旨すぎて隙がないんだよなあ、と。つまり何かちょっと足りないところがあって、そこをアテで補完するのが食中酒の醍醐味とすれば、この酒は存在感が強すぎると。なるほど、そういう考えもあるな…。でもまあ、そこは合わせる肴次第かなという気もする。ちなみに言うまでもなく燗以外はあり得ない。50度くらいから分離していた熟成感が渾然一体となる。

安芸虎 蔵燗
船中八策に続き高知産。これもまたアタックが丸い。燗を謳ってはいるが冷酒も悪くない。旨み濃厚だが枯れた味わいも。冷酒だと甘みはほどほど、酸は弱めだが、それがかえって適度な力の抜け具合につながっているというか。甘み旨みが強い上に酸が強いとどうしても力強さが強調されちゃって肩が凝るからね。燗をつけると若干甘みが増すので膨らみが出てほっとする味に。

車坂 ON THE ROCK -SECOND RELEASE-
この酒のせいで熟成酒の深遠な世界へ足を踏み入れることになった。蔵としては氷を入れてのオンザロックを推奨しているが、断然常温か燗のほうがうまい。このクセは苦手な人も多いと思うが、味が濃いので俺は問題なし。むしろ、どストライクでした。ちなみにROCK3も同じくらいおすすめ。

カネナカ 山田錦 生もと 25BY
骨太燗酒界隈において、カネナカはまさにフラッグシップ。それが二年熟成っていうんだから飲まないわけにはいかないでしょう。当然燗つけてもらった。普段燗はやらない店なんだけど無理言ってやってもらった甲斐があった。深いコクとほどよい熟成香がたまらない。これが4年熟成とかになったらちょっと熟香が強すぎてバランスが崩れそうな気もする。まあ飲んでないからわからんが。

Nogne O(ヌグネ・オー) 裸島 山廃仕込 無濾過 純米酒 24BY
ノルウェー産の日本酒ってことで雑誌なんかでたまに紹介されてて存在は知っていたが、ふと居酒屋のメニューに載っていたので迷わず注文。期待通りのフルボディ。24BYということだったが熟成感は思ったほど感じない。いい意味で雑味があって面白い。とろっとして日本酒度-1の割には甘みが強い。完全に好みの甘酸っぱ系だ。ちなみに 酸度は2.5。 で、なんとなく燗つけてみたらこれが大正解。一旦45度くらいまで上げてからの燗冷ましが最高だった。

生酛のどぶ
にごりといえば新酒の時期のうすにごりとかのフレッシュなイメージがあったので、まさかそれを燗にするなんて、まるで味の想像がつかなかったがこれがまた絶品。 口中をマイルドな旨みが完全支配する。香りはほとんどなく、いわゆる完全発酵の骨太純米系なのでめっちゃ燗上がりするんだね。 究極の食中にごり燗酒。もちろん冷やでも悪くないんだけど、これは絶対に燗。しかも飛び切り燗かそれ以上でも。ちょっと普通の日本酒とは別の飲み物と考えたほうがいいかもね。言うなればスープとかお吸い物に近いんじゃないか。個人的にはトマトリゾットとの相性が最高だった。ピザとかも間違いなくいけるなこれは。他にもいろんな食材とのマリアージュを試したい。

▼アル添部門
アル添を否定する人は多い。確かに純米に比べたら旨い酒に当たる確率は圧倒的に低いしね。アルコール添加をすることで、どうしても淡麗すっきり(俺からしたら「薄い」と感じるんだけど)の方向に行きがちで、濃くて重い酒が好きな人間にとってはなおさら難しいカテゴリーではある。ただ、それでも旨いアル添酒というのは存在するのですよ。

笹祝 普通酒
燗で本領を発揮するが冷や(常温)でも◎。柔らかいアタックから穏やかに旨みが広がり、心地よい酸で切れる。普通酒にありがちな嫌なアルコールっぽさも、アル添にありがちな薄さもない。 かといって純米と間違えるというようなことも決してなく、あくまで普通酒として美味しい。純米に慣れた舌からすると新しいベクトルの酒だなあと。 なんというか「薄い」んじゃなくて「軽い」んだよね。そのおかげでいくらでも飲めてしまう。

夢心 普通酒
奈良萬を醸す夢心酒造の福島県内向け銘柄。印象としては笹祝の普通酒と割と似てる。 奈良萬の純米よりこっちのが好きかも…。

辰泉 本醸造 山廃 生 こだま別誂 26BY
このややこしいスペック!見ただけで心躍るわ。通常、辰泉の山廃本醸造は加水&火入れらしいが、大塚の地酒屋こだま特注で生原酒にしてもらったのがコイツらしい。まず飛び込んでくるのは1年熟成によるカドがとれた丸みとほどよい甘さ。しかし本醸造にありがちな線の細さは感じず、旨みが膨らみながらも最後はアル添ならではの軽さで締める。これは本当に旨い。旨すぎる上に、こういうタイプって経験がないので、なんだか脳がついていけない感じがあった。ちなみにぬる燗も良かったが、若干ボケるかなあ。飛びきり燗からの燗冷ましとかいけそうだがどうだろう。
 
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というわけで、アワードといいつつ賞や順位をつけるわけでもなく羅列しまくりました。来年も素敵な日本酒ライフを送れることを祈って。良いお年を。