CHAI「N.E.O.」に見るコンプレックスの二重構造


CHAI『N.E.O.』Official Music Video

一見、美醜という基準ではなく個性をもっと認めて「みんな違ってみんないい」という価値観を持とうよ!と言っているように思える。いわゆる多様性、ダイバーシティだ。しかし、何かのインタビューでぽろっと放たれた「私らって中の下だし、いや下の下かな」という言葉。これは何を意味するのか。

彼女たちは美醜のヒエラルキーを否定しているように見えて、実はそのステージから降りていないのだ。本質的に美醜で評価される社会自体を否定するのであれば自分たちをランク付けしたりしない。中の下とランク付けする(あとから謙遜して下の下と言い換えはしたが)ということは、そのヒエラルキーにどっぷり浸かっていると自ら認めていることになる。

本当に個性を尊重するのであれば、美人であろうがブサイクであろうが同じように社会のあり方を糾弾するはずである。失礼な言い方だが、もし彼女らが既存の美醜の価値観において「美」の側、つまり顔の良さをもてはやされるような存在であったなら、そこで満足してしまいこの曲は生まれなかっただろう。この曲だけでなくアルバム「PINK」の随所で現れるルックスに対する劣等感。彼女らがこれまでの人生でそれによって悩み、苦しみ、傷ついてきたことは容易に想像できる。

ルックスの劣等感を克服する方法はいくつかある。整形して世間の評価を得る、まったく気にしないマインドを育てる、社会のありよう自体を変えようとする、各自の個性を尊重するなど。正直に言って最後の「個性を尊重する」なんてのは、表現としてはもっとも陳腐でつまらない。残念ながら「N.E.O」において彼女らはそれを選んだようにも思える。しかし、そこに至る出自はそんなに素直なものじゃなく、明らかに歪んでいる。「私はブスじゃない!むしろカワイイんだ!お前らもそう思え!私を褒めろ!」そんな厚かましささえ感じる思いがくすぶっているのである。

「NEOカワイイ」とは「カワイイ」の価値観の再定義に他ならない。今までは大きな目が、高い鼻が、細い脚が「カワイイ」だったが、これからはその逆こそが「カワイイ」のだ。「NEO」と言ってしまっている以上、これまでの価値観も肯定して全てを認めることにはならない。全ての個性を尊重するのではなく、あくまで既成の価値基準をひっくり返して、自分がヒエラルキーの上位に立とうとしているのである。そこからは世間的に美人と言われてきた人間に対する怨讐さえ感じられる。

これはコンプレックスまみれの人間が陥りがちな論理のすり替えだが、恐らく本人たちもそこに気付いてはいない。個性や多様性の尊重を謳っているのは本心からだろう。しかし、根底にあるのはやはり劣等感であり、自己肯定感の低さである。自分に自信がない、認めてほしい、カワイイって言ってほしい。だけど、自分たちなんかがそんなことを言ったら図々しいって思われて嫌われるかもしれないから、私たちも含めた全ての人間が認められるような理屈を見つけよう。そんな論理展開が無意識のうちに行われたのではないだろうか。

彼女らはこの主張をリスナーに向けているようで、自分たちに向けている。「みんな違ってみんないい」と自分たちに言い聞かせることで居場所を得ようとしている。でも、人間なんてだいたい何らかの劣等感に悩み、なんとか折り合いをつけながら生きている。個性を尊重すべし、なんてことは言われなくても分かってる。それを他人に教唆するなんてのはおこがましい。だけど自分を守るためにそう言わずにはいられない。結局、褒めて欲しいのは自分であって、他人はそのオマケにすぎない。

そうだとすれば彼女らは実に青臭い。若い。だがそこがいいのだ。一見明るくあっけらかんとした佇まいの裏から透けて見えるコンプレックスに対する叫び。まるでブルースだ。いや、パンクか?とにかくそれがCSSやESGを彷彿とさせる粗くファンキーな演奏に乗る。なんだかんだ言っても、この攻撃的でノー・ウェイブ的なサウンドこそ、彼女らが羊の皮をかぶった狼である証左だ。リスナーはこの音から、その歪んだ主張の裏側を感覚的に嗅ぎ取って、共感するのである。

 

PINK※CDのみ

PINK※CDのみ

 

 

完璧なDJ

ここ最近家でDJミックスを作成していて気付いたことがある。「現場におけるDJプレイは一つの作品である」ということ。(もちろんこれは俺がそう思っているというだけで、一般論ではない。) 

 

この考えは以前より漠然と持ってはいたが、明白に顕在化することはなかった。ただ、毎回現場でのDJ後に悶々として不全感を抱いていたのは確かだ。つなぎで一か所でもミスをすると必要以上に落ち込む。選曲で思った通りの流れを作れないと腹立だしいほどの不満を感じる。


なぜそこまで完璧を目指すのか?大局的に見て場が盛り上がったならそれでいいじゃないか。いや、それではダメだ。盛り上がりは必要だが、選曲も技術も完全に伴わないと意味がない。プライドか?自己顕示欲か?それも大いにある。だがそれだけではない。一体何がそこまで自分を追い込むのか。答えが出ないまま現場からは身を引いてしまったが、ここにきてようやくわかった。俺は現場でのプレイを一つの作品と捉えていたのだ。作品である以上、自分の完成イメージに対して妥協は許されない。

 

DJに対してはいろいろな考え方がある。DJプレイとはその場限りの刹那的なパフォーマンスであり、イベントを客と一緒に楽しむための手段で、それ以上でもそれ以下でもないというのが大方の見解だろうか。もちろん、DJ自身のエゴが介入することで、少なからず自己表現としての要素が加わることもある。簡単に言い換えれば「自分をかっこよく見せるための手段」だ。ただ、そこに時間芸術やインスタレーション作品としての完成度を求める人間はそう多くないだろう。

 

DJプレイは芸術作品であるべき、と言っているのではない。ただ、他の多くの人と自分はDJに対する考え方が違っていたというだけだ。もし自分の考えが大方の見解と同じであったなら、ここまで難しく考えて完璧なプレイができないことで悩むこともなかっただろう。

 

つなぎはノーミスかつ選曲もイメージ通り、さらに場も盛り上げる。現場でのプレイでこれらを行うのは至難の業である。相当のスキルとセンスが必要になる。少なくとも俺にとっては不可能と言っていい。実現するために考え付く方法といえば、候補曲を全て脳内再生できるまで聴き込む、どんな状況でも何も考えずにつなげるようになるまで体に叩き込むなど、要は不断の努力によってしか成し得ないと思っている。ところで、こんな血の滲むような修練をせずとも簡単にやってのけるDJもいるが、あれは一体どういうことなんだろうか。何か根本的に脳の造りが違うのか、センスが異常なのか。それとも実はこちらが気付かない程度のミスをしていて本人としては不満を持っているのか。いずれにしても俺は降りた。俺には無理だ。そこまでしてDJに魂を捧げる覚悟はない。

 

そうは言っても、ミックスを練り上げてドロップする行為そのものは曲作りと同じくクリエイティブな作業であり、非常に有意義である。それゆえ、現場を離れても宅録ミックスは時折制作している。現場に対する若干の未練と言えなくもないが。

 

宅録ミックスの場合、ミスは編集で全て修正できるし、流れも熟考できる。当然出来上がったものは自分の理想に限りなく近い。これを現場で再現出来たらどれだけ素晴らしいか。しかしそれは無理。そんな技術はないから当り前だ。つまり、自宅で時間をかけて念入りに作り上げたミックスと現場での条件反射で作りだしたその場限りのミックス、両者は似て非なるものである。現場で完成度に拘っていたころは、ここを混同して両者は同じものだと勘違いしていたのだ。現場DJを宅録同様に一作品として捉え、執拗なまでに完成度を求めるのはそもそも無理な話であり、それは本来(というか少なくとも俺レベルでは)編集作業を行うことでしか為しえないのだ。ここの勘違いに気付いたことで、これまでの自分の拘りの理由が明確になり、頭の中の靄が晴れた気がしたのだった。


そんなこんなでいろいろ考えながら作ったハロプロオンリーのミックス「The Anthology of Akabanebashi-funk 2017」を久々開催の#ClubGATASにて来場者特典として配布します。私は都合で行けませんが、いわずもがな最高のイベントですので!

5/27(土)23時~ Don't miss it!
http://clubgatas.hateblo.jp/entry/2017/04/02/145454

やし酒飲み / エイモス・チュツオーラ

 

やし酒飲み (岩波文庫)

やし酒飲み (岩波文庫)

 

 

以前より興味のあったアフリカ文学「やし酒飲み /エイモス・チュツオーラ著」を読んだ。神話的世界観の中で奇想天外、荒唐無稽、支離滅裂な冒険譚が、独特の語り口で淡々と語られる。ここには何の示唆も含蓄も心理描写もない。そもそもそういった深みを求める類の読み物ではないのだが。

一般的には極めて高い評価を得ている小説だが、果たしてこれが文学作品として真っ当に評価できるのか。自由で荒唐無稽なものを面白がる気持ちはわかる。普段の生活がキッチリしていればいるほど、そう感じるのかもしれない。ただ、私にとっては小学生の妄想にしか思えなかった。

確かに現代の西欧文化圏で生活する大人からは出てこないだろう自由奔放な発想は面白い。面白いが、この程度の想像力は子どもなら大体備わっている。それがアフリカ的な価値観を土台にして改めて表現されたにすぎないのではないか。今の私にはこれを深読みすることも、評価すべきポイントを見出すこともできなかった。

登場するグロテスクなクリーチャーや無茶苦茶な理屈は変態的かつ魅力的ではあるが、プロットや心理描写次第でもっと突き抜けられるはずだ。これじゃ物足りない。もっと俺の頭の中をひっかきまわしてくれ!要するに、ただただ純粋に稚拙なのだ。技巧を持った人間があえて既存の完成したものに挑戦したり、壊したりするのとはわけが違う。ピカソやサン・ラは後者で、チュツオーラは前者だ。(どちらが上ということではない。それぞれに良さはある。)純朴であることは素晴らしい。しかし、それ以上の何かがなければ個人的には評価に値しない。純朴さの下に重なる複層的な構造が必要なのである。

Girls Funk Bravo!!!

久しぶりにJ-POP/アイドル系のmix作りました。だいたいここ二年くらいのファンキーな曲でまとめてます。一発録りじゃなくDAW編集mixです。

ちなみに現場復帰する気は全くないです。このレベルのmixをコンスタントにできるならやりたい気もしますが、絶対無理なので。ディグも大変だし。

 

www.mixcloud.com

【FREE DOWNLOAD】

https://www.mediafire.com/?g4c14hba2us38rp

1.菫アイオライト / WHY@DOLL
2.DANCIN' DANCIN' DANCE!! / GEM
3.純情ジレンマ / photograph
4.女はそれを我慢しない / Vanilla Beans
5.すききらいアンチノミー / フィロソフィーのダン
6.恋わずわず / Lyrical School
7.ディスコティークに連れてって / 星野みちる
8.IN THE CITY / 脇田もなり
9.だいすき / J☆Dee'Z
10.とびきりのおしゃれして別れ話を / SHE IS SUMMER
11.さみしいかみさま / DAOKO
12.Vampire / Awesome City Club
13.READY GO! / 東京女子流
14.dance floor / Shiggy Jr.
15.少女たちの終わらない夜 / H△G × ORESAMA
16.Danger / Especia
17.Shooter / 家入レオ
18.Dance Dance Dance / E-girls
19.lucky train! / AIKATSU☆STARS!
20.TRUE LOVE / 篠崎愛
21.piece of life (second piece) / Ryutist
22.きっと、きっとね。 / でんぱ組.inc

酒の味の表現

日ごろ飲んだ日本酒の味を忘れないようにメモをとっているんだけど、どうにも味に関するボキャブラリーが貧困で最終的には「うまかった」「まあまあだった」「不味かった」とかに集約されてしまうこのバカっぽさ。これじゃ後日味を思い出そうにも思い出せない。そこで、よそ様の日本酒ブログなどを参考にしながら味の表現に使われる単語(主に形容詞)を列挙してみることに。これを見ながらならもうちょっとマシなメモがとれるかも。


■華やか系
華やか
フルーティ
フローラル
芳醇
ジューシー
フレッシュ感

■穏やか系
滑らか
メロウ
安定感
バランス
ほっこり
穏やか
静かな
まとまっている
伸びのある
柔らかな
優しい
深みのある
丸みのある

■ガッツリ系
濃醇
濃密
重厚
厚み
ボリューミー
膨らみ
まろやか
幅の広い
奥行き
力強い
押しが強い
グラマー
乱暴

■クリア系
キレイな
クリアな
さっぱりした
軽快な
すっきりした
青々とした
シャープな
引き締まった
凛々しい
若い
硬い
清涼感
線が細い
あっさりした
きめ細かい

■その他
やんちゃ
シンプル
複雑
ザラつき
さらさら
パウダリー
ミネラリー
発泡感
収斂
ぼやけた
くっきりした
凝縮感
抜けがいい
とろっとした

 

これらを「アタック」「甘み」「辛み」「旨み」「酸味」「苦み」「雑味」「質感」「熟成感」「ガス感」「余韻」「変化」などのトピックごとに擬音をうまく絡めて使えばだいぶ表現できるようになりそう。似たような単語が並んでいるが、それぞれ微妙にニュアンスは違う上、文脈次第でチョイスも変わる。あとはセンスのみですね。

MIS(most impressive sake)アワード 2016

備忘録かねて今年飲んだ中で心に残った酒を記録しておきます。80点くらいの充分に旨い酒はたくさんありましたが、それを全部拾っていくと膨大になるので、特に印象に残った酒に厳選しました。そうなるとどうしてもインパクトの強い変態酒が多くなるのはご容赦を。

個人的な好みの傾向としては「濃醇」「香り控えめ」「キレよし」「程よい熟成感」「アルコール感控えめ」といったところになります。日本酒飲み始めのころは無濾過生原酒とか濃醇甘酸系ばかりに引っかかってましたが、最近では日本酒度がプラスに振り切ってるいわゆる辛口のおっさん臭いのでも旨いな~と思うようになってきました。ただし、濃いのに限りますが。旨みが薄い淡麗なのは甘辛問わずイマイチ好きになれないです。あと辛口を謳ってる酒は基本、燗にして飲んでますが、この手で冷酒のほうがうまいと思えたのはまだ多くないので、来年はこのあたりの「冷酒でも旨い辛口」がディグのテーマになりそう。

ところで、ここまで何年か飲み進めてきて感じるのは、同じ酒であっても様々な要因でガラッとインプレッションが変わるということ。経験値、体調、前後に飲んだ酒、合わせる料理、店の管理、酒器の形など、 いろいろありますが、もっとも大きく影響するのは口開けしてからの日数と飲む際の温度かなと思っています。 口開け至上主義みたいな人が結構いますが、必ずしも開けたてが最もおいしいとは限りません。このへんは酒にもよりますが、確かに大吟醸みたいな香りが強めだったりキレイで繊細なタイプは時間が経つと比較的崩れやすい傾向にあります。反対に燗上がりしそうな骨太純米系は時間が経つにつれ味乗りしてきます。生と火入れでも変化の差は大きいですね。ここらへんを全く考慮しないで飲むとまともな評価は難しいです。

いずれにしろ、以前飲んだ時は旨かったのに今日はイマイチなんて、もうしょっちゅう。もちろんその逆も。なので、1回飲み屋で適当に半合飲んだ程度でウマイとかマズイとか断言するのは難しいです。飲み屋なら期間をあけて2回以上飲んで、それぞれの状況を鑑みながら総合的に判断してはじめてその酒を理解できるのかなと。

とはいえ、現実的にはそう何度も同じ酒に出会えることはありません。季節ものなんかは少なくとも1年待たないと飲めないですし、同じ銘柄で同じスペックであっても年度が変わったら全く違う仕上がりになっているなんてこともよくあります。つまり、これから挙げる酒の多くは一回飲み屋で飲んだだけなので、次に飲んだら全然うまくねえ!となっている可能性もあるということです。更には、個人の好みという最大の不確定要素も加わるので、これを読んでるあなたが旨いと感じるかは全くわからんよ、と。

さて、前置きが長くなりました。ようやく本題です。吟醸大吟醸が極端に少ないあたり、如実に趣味が表れてますね。


▼甘酸濃醇部門
最近は骨太純米燗酒系にシフトしてきているとはいえ、残草蓬莱 四六式と三諸杉 菩提酛が日本酒にはまるきっかけとなった酒なので、どうしてもこのへんの重厚甘酸っぱワールドから抜け出すことができないんです。やっぱり原体験だからね。

早瀬浦 本生純米吟醸
そこそこ華やかな香りでめっちゃ甘酸フルーティ。そして無濾過生原酒なので当然濃い。非常にわかりやすい味。音楽で言うならEDM。火入れのほうは少し物足りなさを感じた。

白玉香 特別純米 無濾過生原酒
これも甘酸で、さらに旨みが乗ってるのでボディが太い。いい意味で雑味もあってとにかくファーストインパクトが強い。無濾過生原酒らしい重さはあるんだけど、酸が効いてるからジューシーでクドさはない。この酸の強い感じは熟成もいけるんじゃないかと踏んでいるがどうだろう。

秋鹿 純米 多酸生原酒
名は体を表す。日本酒度-11、酸度3.6。数値的にかなりヤバイ(特に酸度)が、味も完全に甘酸エクストリーム系。ただ、舞美人みたいなひたすら酸っぱい感じはなくて、甘みも強いのでちゃんとバランスが取れてる。やはり秋鹿は間違いない。

都美人 Miracle Rose 山廃純米原
アルコール度数10%の低アル原酒。そして日本酒度-40というこれまたエクストリーム系。店のマスターのアイデアで、凍らせたのを崩してシャーベット状になったものが提供された(みぞれ酒)。低温のせいか甘さはそこまで感じず、山廃らしい酸と相まって素晴らしいヨーグルト感。10度くらいまで温度を上げてみると、それはそれで悪くないが不思議とパンチ感は減った気がする。この酒はシャーベットがベストだった。

ソガペールエフィス ル・サケ・ナチュレル90
頒布会に入った人しか手に入らない非売品。現代の生もとともちょっとだけ違う製法の「古典生酛」で醸した、精米歩合90%の変態実験酒。 ヨーグルトっぽさもあり、とにかく濃くてインパクトすげえ。常温だとそれなりに感じた雑味も燗にするとすっぱりとなくなる。明らかに燗上がりする酒質だが、ぬる燗以上ならどの温度帯でも味の印象が変わらない不思議さ。これだけ濃いと飲み疲れしそうなもんだけど、これまた不思議と全く飽きずにグイグイいけてしまう。まあそこは俺の好みにハマったからなのかもしれないが。とりあえず、人生でこれまでに飲んだ中では5指に入る酒。

昇龍蓬莱 酵母無添加生もと 古式一段仕込み
精米歩合:93% 日本酒度:-44 酸度:3.8という変態スペック。めちゃめちゃ濃い。でもしっかりキレる。大人のカルピス(エロい)とも例えられる乳酸飲料っぽさは菩提酛にも通じる。ていうか、古式造りってもしかして菩提酛のことなのかな?濃いので割り水して燗つけしても美味かった。

風の森 純米しぼり華 80 雄町
このフレッシュ感とキレ、言われなければとても磨きが80%とは思えない。微発泡なのもフレッシュ感を助長してて素晴らしい。そのうえでちゃんとジューシーでボリューム感も同居していて見事。硬水由来のミネラルっぽさは風の森の特徴だが、それがこのキレにつながってるのかな。スペック的にはマニアックだけど日本酒初心者でもすいすいいけちゃう感じ。

奥 夢山水十割 低温熟成 25BY
結構トロみがあって濃くてジューシー。エッジがとれてて丸みがあるというか。ぽっちゃりした印象。ちなみに自分が飲んだのは二年半低温熟成したものだが、熟成感はほとんど感じなかった。ノーマルのほうはまだ飲んでないのでいつか飲みたい。

鷹長 菩提酛 純米 生原酒
「風の森」を醸す油長酒造の別ブランド。 菩提酛 は個人的な日本酒原体験のひとつとなっていることもあり、現在リリースされている銘柄は全てコンプリートしてやろうと目論んでいるのだが、とりあえずこれまで飲んだ中ではこれが一番好き。最も濃醇で甘酸っぱかった。日本酒度-25、酸度3.2。はい変態酒。

長陽福娘 山廃純米 無濾過生原酒 山田錦
純米吟醸雄町もなかなかだったが、磨きが少ないこっちのほうがより好み。甘旨系で酸は弱めだが変なもたつきは皆無。山廃にありがちな野性味というかガツっとした感じは全くなく、非常に端正。わりと生っぽさが強いので燗は微妙かなと思ったが、これも全然いける。ぬる燗くらいで雑味が消えてまとまりが良くなる。こうなると他のスペックも飲みたくなるな。特に速醸の山田60が気になる。
 
民宿とおののどぶろく 水酛仕込み
どぶろくそのものをそんなに飲んだことがないので基準がわからないが、まあこれはほんとうまいです。甘酸系で当然濃いけど微発泡でフレッシュ感あるから嫌味は全くない。これ飲んじゃうとやっぱり水酛(菩提酛)には何かあると思わざるを得ない。

▼バランス系部門
ガツンとくるインパクトはそれほどではないものの、なぜか心に深く刻まれた田中六五を載せたいがために無理やり設けた部門。

田中六五 生
極端な酒ばかり紹介しているがその中にあって正統派のバランス酒。甘み、酸味、苦み、旨み、全ての要素がちょうどいい。ちょうどいい酒なんていっぱいあるけど、そのちょうどよさが半端ない。うまく表現できないが。どこかエレガントさも感じさせるあたりがネオクラシカルと言われる所以か。キレイで程よい旨みと弱い香りでエレガントとという意味では新政No.6と同じ方向性かも。生と火入れがあるが個人的には生のほうが好み。火入れは旨みが少し物足りないかな。

御前酒 菩提酛 雄町
同じ蔵の9(nine)の菩提酛は夏酒っぽい感じで正直物足りなかったが、こっちは全然違った。さすがは雄町のボリューム感。甘酸ではあるけど、それもほどほどの域に納まっていることから、あえてバランス系とした。菩提酛っていうとどうしても極端な味になるものが多い中、この程よい仕上がりってのは非常に造りがテクニカルなんだろうな。蔵人じゃないからよくわからんけど。

新政 日本酒古典技法大全 九割四分磨き精米
頒布会限定なので飲めるとは思ってなかったが案外置いてある居酒屋あるのね。ソガペールの90%と昇竜蓬莱の93%よりずっとすっきりした味わい。94%って食米より低精白なのに、やり方次第でこんなにもバランスのいい酒ができるんだな。立ち香はほとんどないが、なぜか含み香は結構あって、それなりの複雑味とボディの強さを持ちながらも、甘すぎずほどよいキレ。一言で言うとすげえうまい、それに尽きる。ちなみに燗上がりはしなかった。冷酒のほうがうまい。経験則からして、この手は間違いなく燗がいけるはずだったのにな。そこもまた不思議な酒。

山陰東郷 純米大吟醸
濃くて太くて燗上がりする大好きな銘柄。基本的にバリバリ完全発酵系の辛口燗酒を造る蔵なんだけど、25BYから強力を使った造りで日本酒度-14という(表面上は)これまでとは真逆の方向性を打ち出している。で、俺が最初に飲んだのは26BYの強力なんだけど、これがまた甘くて太くて最高で。以来、基本路線の辛口も含めてずっとファンなのだが、大吟醸は初めて飲んだ。40%磨きの生酛で山田錦。まず上立香。ほとんどない。よっしゃ、期待通り。一口含んでみる。これはすごい。間違いなく山陰東郷の味で、アルコール感がなくてバランスのとれた甘みと酸味が超好み。しかしこれが大吟醸かってくらい太いし香りはないし(褒めてる)。若干雑味が少なめでクリアな感じが大吟醸らしさなのか。新政の94%は、この磨きでこのクリアさ!という驚きだったけど、これは真逆。考えようによっては、普通の純米と味が変わらないならわざわざ価格が高い大吟醸を飲む意味もなかろうと思うが、それも野暮な考えか。燗をつけなかったのが悔やまれる。

開運 ひやおろし
開運は静岡酒の中ではもっとも好きな銘柄でいつどのスペックのを飲んでも外さない安定感がある。このひやおろしも例に漏れず。静岡酵母独特の口当たりの柔らかさと酢酸イソアミル由来のメロン的立ち香はそのままに程よい熟成感が足されていて、面白うまかった。燗をすると優しい甘みがやや前に出てくるが、あまり大きく印象は変わらない。

新政 立春朝搾り
生まれてはじめて飲んだ朝搾りがこいつなんだけど、それはもうフレッシュで発泡感あってすいすい行けちゃううまさ。どっしりした酒が好きな私もさすがにやられた。ちなみに別の機会に天青の本醸造の搾って二日目くらいのを飲んだんだけど、それもかなりうまかったので、新政だから最高!という話ではないのかもしれない。

船中八策 純米超辛口
超辛口と謳っているが、アタックは甘めで丸い。リリースで辛口らしくドライさが顔を出してバシっとキレる。燗はぬるから人肌くらいがちょうどいい具合に甘みが強調される。ただ、この酒に関しては燗よりも常温のほうが好みかな。低い温度のときに感じられる硬さが個人的に好み。辛口おっさん酒に開眼したての今の自分にはとてもうまい酒なんだけど、おっさん酒界隈ではアベレージクラスなのかもしれない。来年以降また経験値を増した後にどう感じるかが楽しみ。

▼燗酒部門
燗あがりする酒ってのは、燗をした時点で不思議とどれも及第点以上になるんだけど、逆に言うと割とみんな似たようなキャラクターになってしまい突出した銘柄に出会いづらい。その中にあってなお印象に残った6酒を。

神亀 ひやおろし 山廃純米 24BY
これは本当に旨い。旨みの嵐。レギュラーの神亀をさらにぶっとくして熟成感もプラスした欲張りさん。友人いわく、旨すぎて隙がないんだよなあ、と。つまり何かちょっと足りないところがあって、そこをアテで補完するのが食中酒の醍醐味とすれば、この酒は存在感が強すぎると。なるほど、そういう考えもあるな…。でもまあ、そこは合わせる肴次第かなという気もする。ちなみに言うまでもなく燗以外はあり得ない。50度くらいから分離していた熟成感が渾然一体となる。

安芸虎 蔵燗
船中八策に続き高知産。これもまたアタックが丸い。燗を謳ってはいるが冷酒も悪くない。旨み濃厚だが枯れた味わいも。冷酒だと甘みはほどほど、酸は弱めだが、それがかえって適度な力の抜け具合につながっているというか。甘み旨みが強い上に酸が強いとどうしても力強さが強調されちゃって肩が凝るからね。燗をつけると若干甘みが増すので膨らみが出てほっとする味に。

車坂 ON THE ROCK -SECOND RELEASE-
この酒のせいで熟成酒の深遠な世界へ足を踏み入れることになった。蔵としては氷を入れてのオンザロックを推奨しているが、断然常温か燗のほうがうまい。このクセは苦手な人も多いと思うが、味が濃いので俺は問題なし。むしろ、どストライクでした。ちなみにROCK3も同じくらいおすすめ。

カネナカ 山田錦 生もと 25BY
骨太燗酒界隈において、カネナカはまさにフラッグシップ。それが二年熟成っていうんだから飲まないわけにはいかないでしょう。当然燗つけてもらった。普段燗はやらない店なんだけど無理言ってやってもらった甲斐があった。深いコクとほどよい熟成香がたまらない。これが4年熟成とかになったらちょっと熟香が強すぎてバランスが崩れそうな気もする。まあ飲んでないからわからんが。

Nogne O(ヌグネ・オー) 裸島 山廃仕込 無濾過 純米酒 24BY
ノルウェー産の日本酒ってことで雑誌なんかでたまに紹介されてて存在は知っていたが、ふと居酒屋のメニューに載っていたので迷わず注文。期待通りのフルボディ。24BYということだったが熟成感は思ったほど感じない。いい意味で雑味があって面白い。とろっとして日本酒度-1の割には甘みが強い。完全に好みの甘酸っぱ系だ。ちなみに 酸度は2.5。 で、なんとなく燗つけてみたらこれが大正解。一旦45度くらいまで上げてからの燗冷ましが最高だった。

生酛のどぶ
にごりといえば新酒の時期のうすにごりとかのフレッシュなイメージがあったので、まさかそれを燗にするなんて、まるで味の想像がつかなかったがこれがまた絶品。 口中をマイルドな旨みが完全支配する。香りはほとんどなく、いわゆる完全発酵の骨太純米系なのでめっちゃ燗上がりするんだね。 究極の食中にごり燗酒。もちろん冷やでも悪くないんだけど、これは絶対に燗。しかも飛び切り燗かそれ以上でも。ちょっと普通の日本酒とは別の飲み物と考えたほうがいいかもね。言うなればスープとかお吸い物に近いんじゃないか。個人的にはトマトリゾットとの相性が最高だった。ピザとかも間違いなくいけるなこれは。他にもいろんな食材とのマリアージュを試したい。

▼アル添部門
アル添を否定する人は多い。確かに純米に比べたら旨い酒に当たる確率は圧倒的に低いしね。アルコール添加をすることで、どうしても淡麗すっきり(俺からしたら「薄い」と感じるんだけど)の方向に行きがちで、濃くて重い酒が好きな人間にとってはなおさら難しいカテゴリーではある。ただ、それでも旨いアル添酒というのは存在するのですよ。

笹祝 普通酒
燗で本領を発揮するが冷や(常温)でも◎。柔らかいアタックから穏やかに旨みが広がり、心地よい酸で切れる。普通酒にありがちな嫌なアルコールっぽさも、アル添にありがちな薄さもない。 かといって純米と間違えるというようなことも決してなく、あくまで普通酒として美味しい。純米に慣れた舌からすると新しいベクトルの酒だなあと。 なんというか「薄い」んじゃなくて「軽い」んだよね。そのおかげでいくらでも飲めてしまう。

夢心 普通酒
奈良萬を醸す夢心酒造の福島県内向け銘柄。印象としては笹祝の普通酒と割と似てる。 奈良萬の純米よりこっちのが好きかも…。

辰泉 本醸造 山廃 生 こだま別誂 26BY
このややこしいスペック!見ただけで心躍るわ。通常、辰泉の山廃本醸造は加水&火入れらしいが、大塚の地酒屋こだま特注で生原酒にしてもらったのがコイツらしい。まず飛び込んでくるのは1年熟成によるカドがとれた丸みとほどよい甘さ。しかし本醸造にありがちな線の細さは感じず、旨みが膨らみながらも最後はアル添ならではの軽さで締める。これは本当に旨い。旨すぎる上に、こういうタイプって経験がないので、なんだか脳がついていけない感じがあった。ちなみにぬる燗も良かったが、若干ボケるかなあ。飛びきり燗からの燗冷ましとかいけそうだがどうだろう。
 
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というわけで、アワードといいつつ賞や順位をつけるわけでもなく羅列しまくりました。来年も素敵な日本酒ライフを送れることを祈って。良いお年を。
 
 

2016年に発表した作品まとめ

今年はDJをやめたので制作のほうに時間を割くことができました。振り返ってみると別にどうでもいいような作品ばかりですが、とりあえずリリースした時点ではまあまあやりたいことができたような気がしてました。でも、やっぱりなんか違う。ずっと昔から心の奥底にあるモヤモヤしたものを表現しきれていない。多分それができるまでは作品を作り続けるんじゃないでしょうか。

 

00 / emptylogic

https://f4.bcbits.com/img/a2288556547_16.jpg

 

なぜかテクノですが、このときはなんとなくこういうグイグイくるやつを作りたかったんです。

 

01 / emptylogic

https://f4.bcbits.com/img/a3044161673_16.jpg

 

これはテクノっていうかミニマルですね。作りためてたやつを形にしてさっさと排出したかったんですよね。じゃないと次に行けないので。

 

maturation / Ginger does'em all

https://f4.bcbits.com/img/a2665040463_16.jpg

久しぶりのGinger~名義ですが、客観的に聴いてemptylogic名義と何が違うのって言われるとあんま変わらないですね。作る側としては、こっちのほうがより作り込みに時間をかけてます。あと、ある程度コンセプチュアル。

 

Soothing with neo citypops

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Soothing with citypop classics

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こいつらは作品っていうかミックスですね。行きつけの飲み屋でかけてもらうために作りました。現場でDJやってた頃はショートミックス主体でしたけど、これはあくまでBGMとして飲んでる人の邪魔をしないようにと考えているので、ほぼフルがけです。

(トラックリストとDLリンクはリンク先のmixcloudにあります)

 

Party Girl (soulful strings mix)/ Underboob

DJ時代のお友達のなちゅとさなえによる文化祭ユニットのCDにリミックスで参加。現場から離れてもこういうオファーがいただけるのは本当にありがたいし嬉しいことです。個人的に近年作ったものの中では突出して良い出来なんですが、いかんせん自主制作で基本的に現場でしか売らないCDなので入手困難なのが玉に瑕。現場には行けないけどどうしても欲しいという奇特な方は多分twitterでDM送るとかして頼めば売ってくれると思います。→Underboob (@_Underboob_) | Twitter

 

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なお、今現在作ってる曲はファンク回帰路線ですが、今一つピンと来てないので全然違うものになってドロップされるかもしれません。まあ、2017年もぼちぼちやっていこうと思います。